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奈良地方裁判所 昭和61年(行ク)6号 判決 1988年8月17日

当事者

別紙当事者目録記載のとおり

主文

本件申立を却下する。

理由

一  原告の本件申立の趣旨及び理由の要旨は、昭和五九年(行ウ)第一号所得税更正処分取消請求事件において、被告提出の書証である同業者調査表乙第一号証の三ないし一四、(同人らの所得税青色申告決算書から売上金額、経費、材料、リース料の数値を移記したもの)(以下「本件調査表」という。)が、経費の支出項目とその内容の関連において、原告への推計課税の合理性を裏付ける資料たりえないことを立証するために、本件調査表記載の各対象者に関する所得税青色申告決算書(以下「本件文書」という。)が必要であり、本件文書は民事訴訟法三一二条一号に該当し、被告が提出義務を負担する文書であるから、その提出命令を求めるというのであり、これに対する被告の答弁及び反論の要旨は、本件文書は、同号に該当せず、被告はその提出義務を負っていないので、本件申立の却下を求めるというのである。

二  そこで検討するに、本件文書が民事訴訟法三一二条一号にいう文書であるか否かはさておき仮に同号にいう文書に該当するとしても、税務署長は、国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条により納税者の青色申告決算書記載の金額、資産負債の内容等について守秘義務を負うのであるから、右納税者がこれら秘密の開示に同意しているなどの特段の事情がない限り、民事訴訟法二八一条一項一号、二七二条の類推適用によりその提出を拒むことができると解すべきである。

そして、本件では右特段の事情は認められないし、仮に原告が主張するように納税者の氏名、住所等納税者の特定に必要な固有名詞を伏せたとしても、調査の対象となっている区域内に原告と事業形態の同規模な同業者がそれほど多くないと認められる本件においては、青色申告決定書に記載してある他の諸事項や筆跡などにより、納税者が特定され、同人の秘密保持の利益が侵害されるおそれが多分にあるといわざるを得ず、結局、被告に本件文書の提出義務を課すことはできない。

このように本件文書の提出義務を否定すると、原告の反証にある程度の支障をきたすことは免れないが、原告は本件調査表の作成の経緯等について関係者に反対尋問するなどして同表の証明力を争うことができ、また本件調査表自体そのような文書であることを考慮してその証明力が評価されるのであるから、公平の理念に悖るとはいえない。

三  よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申立は理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 長谷喜仁 裁判官 山田賢 裁判官 伊名波宏仁)

当事者目録

橿原市東坊城町九二八-四

申立人(原告) 森本正雄

右訴訟代理人弁護士 坂口勝

同 末丘康毅

大和高田市三和町二の一七

被申立人(被告) 葛城税務署長

阿部泰生

右指定代理人 下野恭祐

同 国府寺弘祥

同 棚橋満雄

同 葛原大二郎

同 柏原一郎

同 足立譲

同 的野珠輝

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